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ケースレポート(症例報告)の書き方【前編】

ケースレポート(症例報告)とは、患者の疾患の症状や疾病の兆候、診断、治療、経過観察などに関する詳細報告です。ケースレポートに患者の人口統計プロファイルを含めることもありますが、一般的にはまれな症例、既知のものとは異なる症状や新しい事例などについて書かれる報告書です。

ここでは、ケースレポートの書き方のガイドとして、10のステップを前後編でお伝えします。

ステップ1:何についてのケースレポートを書くか、目的を明確にする

ケースレポートとして取り上げられる内容はさまざまですが、珍しい症例や新しい疾患の診断や治療に関する知見を報告することによって、新たな病気の予防、診断、治療に役立てることができます。ケースレポートに記す内容としては以下のようなことが挙げられます。

  • 疾患または症状における予期せぬ関連性
  • 患者の観察または治療の段階で生じた予期せぬ事象
  • 疾患や副作用の原因と考えられる新しい知見
  • それまでに例のない特異的な病態、またはまれな疾患の特徴
  • 新たな治療方法
  • 解剖構造における位置的または量的変動

該当する症例が本当にまれなものなのかは、過去に発表された症例報告などを十分に確認しておく必要があります。後ほど記述するような検索エンジンやデータベースか検索し、報告がない、あるいは少ないことを確認しておきましょう。

ステップ2:ケースレポートを投稿する学術雑誌(ジャーナル)を選ぶ

ケースレポートの内容によって投稿するジャーナルを選出します。例えば、珍しい負傷の治療についてのケースレポートは、British Medical Journal(BMJ)のような主流の総合学術ジャーナルではなく、SAGE Publishingが出版しているTraumaのようなジャーナルにアクセプト(受理)される可能性が高いこともあります。また、ジャーナル選出の際に、BMJのように著者向けにケースレポートの書き方指南を提供しているジャーナルもあるので、投稿先のジャーナルにガイドラインなどがあるか、どのような症例報告を受け付けているのかを確認してみるとよいでしょう。

ケースレポートをジャーナルに投稿するにあたって重要なことは、投稿先のジャーナルの投稿規定に準ずることです。ケースレポートの内容がどんなに良くても、投稿規定に準じて書かれていなければリジェクト(却下)されてしまいます。ケースレポートだけでなくすべての投稿論文に共通することですが、規定に準じて、余白サイズ、文章の間隔、図表番号の付け方、参考文献のスタイル(バンクーバー方式かハーバード方式か)などの書式設定は必ず確認しましょう。

ステップ3:ジャーナルの投稿規定に沿ってケースレポートの構成を組み立てる

まず、投稿先のジャーナルでケースレポートの書式および書くべき項目に関する規定が設けられているかを確認し、ある場合にはその規定に沿って構成を考えます。当該ジャーナルに掲載されている過去のケースレポートを読むことも役立つでしょう。以下にケースレポート向けに設けられた書式の例をあげておきます。

アブストラクト/抄録

アブストラクト、または妙録、要約と称される部分は、論文内容が把握できるように、取り上げている症例と関連する問題、判明したことなどについて、簡潔かつ無駄なく要点を書き出します。ジャーナルによっては、アブストラクトの字数に制限があるので、注意しましょう。

イントロダクション/序論

イントロダクションには、その症例に注目する理由、関連する臨床的な問題点について詳しく、その症例の特徴や新規性も含めて概説します。必要な場合には先行文献を提示しつつ、このケースレポートがどのように貢献できるかも示します。

症例紹介

症例紹介には、患者の情報、患者の医学的状況と病歴などを以下のように時系列に沿って正確に詳述します。患者のプライバシーを守るために患者の情報をイニシャルで記述したり、本人が特定できない写真を選んだりするなど倫理的要件には十分注意します。
・患者の基礎情報と診察結果
・病歴
・臨床検査所見:検査の分析結果、臨床所見
・適切な治療計画と評価

鑑別診断

鑑別診断とは、診断を行うにあたり、患者の症状や検査結果から可能性のある病気の比較を行いながら、その症状を引き起こしている疾患を絞りこんで特定していくものです。この鑑別診断を行うために必要な情報を入手しておきます。
・考慮すべき疾患の裏付け
・必要な場合には追加調査の実施

病態生理

病態整理とは、診断された病気あるいは負傷によって患者の身体機能がどのような状態になっているのか、その原因はなんなのかといったことであり、治療を行うために病態生理を知っておくことは重要です。

治療・患者管理

最終的な診断結果、治療計画、実際に治療を行った後の経過観察を説明します。

考察

研究の重点項目と、分かったことについてまとめていきます。初めて明らかになったこと、今回のケースレポートと先行事例(研究)との比較から導き出された考えなども書き込みます。考察は症例報告の中でも非常に重要な項目なので、なぜその症例が報告される必要なのかを提示しなければなりません。さらに、将来の臨床研究に影響する内容であることも明記できればよりよいレポートとなります。以下の項目を参考に考察を考えてみてください。
・病気の原因、因果関係
・疫学
・有病率(患者数)
・合併症
・予後(治療後または手術後の経過に関する医師の見解)
・倫理的な課題(あれば)

結論

結論は、投稿先ジャーナルの指示に従って、ケースレポート全体の要点をわかりやすく記します。自分が得られた主要な知見に基づき、同様の症例に遭遇した医師や研究者らに向けて、どのように対処すべきかの提案や助言を書くことも可能です。臨床にどのように貢献できるかを付け加えるのも良いでしょう。

参考文献

ケースレポートに引用した参考文献は、投稿先ジャーナルの引用ガイドラインに準じて適切に書き出しておく必要があります。

ステップ4:ケースレポートを書き出す

構成がまとまったところで、書き出しますが、どこから手を付けるべきでしょうか。
ケースレポートを医学ジャーナルに掲載することによって、まれに生じる症例あるいはそれまでに報告されていない特性、病態、合併症、または治療介入に関する情報を医療業界に伝えることができます。ケースレポートとして発表される内容は、まれな症例、珍しい所見などが挙げられますが、新薬投与後の経過観察や副作用について書かれたものもあります。ケースレポートを専門的に掲載するジャーナルに的を絞って投稿すれば掲載されやすくなるかもしれません。以下のような内容を含んだケースレポートであれば掲載される可能性は高まるでしょう。

  • まれな症例、今までには見られなかった未知の症状、あるいは病態に対する新しい診断上の特徴を示している
  • 治療上の課題や論点、またはジレンマ(倫理的な課題)を報告するもの
  • 新しい外科的処置を説明しているもの
  • 薬剤がどのように外科的処置を高めることができるか、その方法を報告するもの
  • 新たに起きた医療ミスや投薬ミスを報告するもの
  • まれな、あるいは新規の有害薬物反応を説明するもの
  • 治療介入における問題、または治療効果が低いことを説明するもの

このように多くの医師らにとって有益な情報を提供するだけでなく、新たな治療法や特定の疾患の原因究明につながるケースレポートは、受理されやすくなると言えるでしょう。

同時に、検索についての注意も必要です。症例報告を書き出す前に、広範囲に文献検索を行いましたか?PubMed、Medline、Ovid、EmbaseやGoogleなどの検察エンジンには膨大な情報が掲載されているので、ケースレポートとして扱おうとしている症例に関連する情報を収集しておきましょう。このとき、実際の症例に絞って検索するのが大切です。適切な検索を行っても非常に少ない数の検索結果しか得られなければ、その症例がまれにしか起こらず、該当の症例を扱った報告が受理され、出版される可能性が高いことを意味しています。まれな症例でなければ、そのケースレポートは掲載されにくくなることを覚えておいてください。

ステップ5:ケースレポートに記載する情報を整理する

  • 患者への治療介入に関するあらゆる事象(介入歴、検査所見、調査結果、日付、手術所見など)の詳細な記録を残しておきます。
  • X線画像や写真などは患者の予後観察などで後日も必要な記録なので、ケースレポートにはコピーを付け、オリジナルは保管しておきます。
  • 患者の病歴や検査日などすべての患者情報を患者に再確認し、事実が正しく記載されていることを確認します。

ケースレポートは、医学的、教育的な目的で患者の医療上の問題を解説するものです。ケースレポートからは治療の質を向上させるのに必要な情報を得ることができますが、そのためケースレポートは良質であることが求められます。ケースレポートの正確性、透明性などを高めるために専門家らがまとめた「CAREガイドライン」には、症例方向に含めるべき項目のチェックリストが記されています。ケースレポート執筆の際には、投稿先ジャーナルの書式に加えて、このガイドラインの提供するチェックリストも参考にすることをお勧めします。

本記事の後編では、ステップ6以降、ケースレポートに記載すべき項目についてもう少し踏み込んだ情報をお伝えします。

 


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